昨今「TPP」なる言葉が巷を賑わしていますね。各国の利害関係をまとめるのに何年もかかり、2015年10月にやっとこさ大筋合意し、ついに2016年に始動する運びとなりました。
そこで今回は、TPPの導入によって消費者にはどんなメリット・デメリットがあるのか…気になるところをわかりやすく解説します♪
※本記事の内容は、執筆当時(2015年11月25日)のものです。執筆以降は加筆修正等していません。
なお、2016年11月9日に行われたアメリカ大統領選挙で、「大統領になったらTPPは即時離脱する」と公言していたトランプ氏が当選。TPPの先行きは不透明になっています。日本では10日夕方に、TPP承認案と関連法案が衆議院本会議で可決され、参議院へと送られました。とはいえ、トランプ氏の大統領選勝利によって「TPPの存在意義がなくなる」のかもしれません。これから先どうなるのでしょうか!?
●そもそもTPPとは?
<これまでの流れ>
TPPとは、Trans-Pacific Partnershipの頭文字をとったもので、日本語では「環太平洋パートナーシップ協定」と呼ばれています。
この協定は、もともと2006年に発効したニュージーランド、チリ、ブルネイ、シンガポールの4各国間の自由貿易協定でした。
そこへアメリカ、オーストラリア、ベトナムとペルーが参加を表明し、2010年3月にTPP交渉が始まりました。この辺りから、日本でも頻繁にTPPという言葉が登場するようになりましたね。
なお、日本がTPP交渉に参加したのは2013年7月。交渉は各国の利害がなかなか一致しないこともあり、非常に難航しましたが、2015年10月5日に米アトランタにて参加12か国が大筋合意に至ったと発表されました。
<TPPの狙い>
TPPのそもそもの目的は、太平洋周辺の参加12か国が、特別協定に基づいて各国間の貿易を活性化し、経済効果を上げようというもの。
また、21世紀型の新しいルール作りをして、新たに巨大経済圏を築き、台頭する中国主導の世界経済をけん制しようという狙いがあります。実際に現在の参加12か国だけで、世界経済の4割を占める経済圏ができることになります。
さて、現在物議をかもしているのは、TPPが提唱する「各国間の貿易の際の関税の撤廃・引き下げ」の部分が主です。
しかし、貿易などの「物品の市場アクセス」だけがTPPの内容ではありません。「金融サービス」「投資」「知的財産」「環境」「労働」など、幅広いテーマを網羅しています。これによって、参加国間の投資や企業進出などもし易くなってきます。
<大筋合意の主な内容>
今回大筋合意に至った主な項目は下記の通りです。
コメ:国別に無関税枠を設け、段階的にその枠を広げていく。3年目までは米国から5万トン、オーストラリアから6,000トン。13年目以降は米国から7万トン、オーストラリアから8,400トン。
牛・豚肉:輸入肉の関税の大幅な引き下げを決行。牛肉は現行の38.5%から37.5%へ。その後段階的に下げ16年目からは9%に。
豚肉は低価格帯のものは現行の1㎏あたり485円を125円へ引き下げ。その後段階的に下げ、10年目以降は50円に。
乳製品:バターと脱脂粉乳にTPP輸入枠を設け、低関税を採用する。当面は生乳換算で計6万トン、6年目からは計7万トン。一部のチーズ類は16年目までに関税を撤廃する。
小麦:米国、カナダ、オーストラリアへTPP輸入枠を設け、関税は現行維持。小麦はいったん国が輸入し、その後製粉会社等に転売する形をとっているが、その際に徴収する「輸入差益」を9年目までに45%カットする。
水産物:アジ、サバ、マグロ、サケ、マスなどの関税を撤廃する。
ボトルワイン:8年目までに関税を撤廃する。
自動車関連:カナダは8年目までに日本車の輸入にかかる関税を撤廃する。米国も15年目、20年目と段階的に下げ、25年目には撤廃する。
自動車部品に関しては、8割以上の項目で即時撤廃する。また、自動車を現地生産する場合は、原則45%の部品を同地域内で調達する。
バイオ医薬品:バイオ医薬品の開発データ保護期間を最長8年とする。
著作権:保護期間を現行の50年から70年に延長する。
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●TPPのメリットとデメリットは?
<メリット>
・関税が安くなったり撤廃されたりすることで、食品等の輸入品そのものや、輸入品を原材料に使用している商品の値下がりが見込まれます。
具体的には、米や小麦の穀類やバターが値下がりすることで、パンや菓子類といった商品の価格が下がる可能性があります。
バターなどは毎年供給不足が話題になっていますが、ニュージーランド産などを積極的に輸入することで、供給を増やすことも。また、外食産業も穀類、バターの他、肉類や海産物の値下がりの恩恵を受けることになり、結果として消費者にも低価格での供給が実現できる可能性があります。
・日本の主力産業の自動車業界では、関税の引き下げ・撤廃によって、海外市場での競争力が上がることになります。
特に韓国と米国が自動車の自由貿易協定を結んだことで、韓国車に対する米国での競争力の低下が懸念されていたものが、払しょくできることになります。
また、自動車だけにとどまらず、その他の工業製品に関しても関税のハンディがなくなるため、海外に市場を広げやすくなり、結果国内の産業の発展につながります。
・TPPでは、バイオ医薬品の開発データ保護期間が「実質8年間」に統一されます。この期間を過ぎると、特許医薬品と成分は同じで価格が低い「ジェネリック医薬品」の販売ができるようになります。そのため、消費者は医療費を削減することができるようになります。
・TPPの大きな狙いである、参加国間の整備・貿易にまつわる障壁を取り除く、という方針のおかげで、大手企業などは企業内貿易のコストが大幅に下がり、利益が上がることになります。
・数々の規制を取り除くことにより、貿易の自由化が促進され、国内で生産された商品の輸出が増えGDPが上がります。
<デメリット>
・外国産の安い農作物や肉類、海産物が流入することにより、国内の農業が打撃を受け縮小する懸念があります。
そうなると、ただでさえ食物自給率の低い日本が、更に食料を外国に頼ることになりかねません。もし、天災など何らかの事情で外国の産地が打撃を受けた場合、その分の供給をどうするのかという問題が発生します。
・農業(酪農含む)の縮小により、食料供給面以外で農業が担っている環境維持機能が損失を受けます。
例えば、水田が減ることにより土地の貯水効果、洪水や土砂崩れを防ぐ機能が失われるほか、景観を維持することも難しくなります。
また、農村で伝承されてきた日本の伝統行事等も廃れることにつながる可能性も。
・関税の引き下げと撤廃により、今まで以上に外国産の食品が国内で消費されることが予想されます。
日本は食品添加物や遺伝子組み換え、残留農薬のスタンダードが他国よりも厳しく、これまでにも規制緩和の圧力をかけられてきました。
今回のTPP大筋合意により、他国と足並みをそろえるために規制緩和を受け入れる方向に進み、結果、食の安全が脅かされるのではないかという懸念が強まります。
・TPPは「農作物、工業製品、サービスなどすべての商品に対する貿易障壁を取り除く」という名目を掲げていますが、「サービス」の中には医療も含まれ、「貿易障壁」にはその国の法律や制度も含まれます。
現在日本の医療は、「国民健康保険制度」と医療報酬を決めるための「保険点数制度」の2点によって、国民すべてが同等の医療を供給しています。
しかしTPP参入によって、他国の医療制度に足並みを揃えるようになった場合、この2制度が崩壊する恐れが多分にあります。
つまり、米国のような「良い医療を受けるためにはより高額の医療費を払う必要がある」というシステムにとって代わり、医療格差が生じることになる懸念が大いに発生する可能性が高まるのです。
後記
それぞれの利害関係によって、賛成派と反対派が争っていたわけですが、大筋合意によって、2016年にはTPPが本格始動することはほぼ確実となりました。
一見すると、消費者にとっては多くのメリットがあるように思えます。
とはいえ、消費者は一転して逆の立場でもあるわけで、生産者やさまざまな関連企業に対する打撃によっては、どれほど日本経済に影響があるのか…あまり一般には知らされていないのが現状です。
これからどうなっていくのか、冷静に注視していく必要がありそうですね!
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